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POWERD SUIT Designed by studio NUE

毎度々々"How to make"みたいなコンテンツを作ってたらこっちの身がもたない・・・けれど、新しいコンテンツが出来るのが1年に一回じゃ、再訪してくれたお客さんに失礼だ!・・・ということで、ときどき軽めの新コンテンツを追加していくことにしますた。

左の写真を見てもらえば判るとおり、バルキリーからは”ぬえ”繋がりということで、お題は・・・・海洋堂 1/20 パワードスーツ キット版 レビュー!!

SF3D ドルバック ミクロマン・・・パワードスーツと名のつくものは数在れど、これこそがパワードスーツ・・・"The Powerd Suit"といえば、早川文庫 ハインライン作『宇宙の戦士』の挿絵を飾った、スタジオぬえデザインのパワードスーツをおいて他には無いだろう。 あの小説にあってこのヴィジュアルは非常に強烈であり、小説自体の内容は良くわからないけれど、挿絵が欲しくて文庫本を買った中学生がガンダムブームだった25年くらい前には沢山いたいに違いない。

このぬえ版PSを脳内に焼き付けられている日本のSFファンにとって宇宙の戦士とPSが切っても切りはなさられるはずが無いが、このヴィジュアル体験の無いアメリカ人には関係なかったようで、映画化された「スターシップ・トゥルーパーズ」では、あっさり切り捨てられていたのはショックだった。 原作のエッセンスの無い馬鹿映画でも、PSが画面で暴れていたら、少なくとも日本ではマーチャンダイズとかで商売になっただろうに。

Produced by KAIYODO

ぬえ版パワードスーツは、過去ゼネラル・プロダクツ等から何度か商品化されているが、クオリティの面で満足のいくものはなかった。   OVA化された際にバンダイからソフビキットが出たこともあったが、それはもはや、ぬえ版とは言えないものであった。 かくして、ロボットおたの頭脳に原典として登録されているビジュアルでありながら、商品には恵まれないのが、ぬえ版PSなのである。 そのぬえ版PSを今や、おまけ製作会社となった海洋堂が商品化するという。

実験的コンセプト


この商品はCADデータを元に原型をデジタル3Dプロッタで削りだし、さらにその原型に対して、原型師がディテール追加および商品原型としてのフィニッシュワークをし、最終的にPVC、ABSおよびダイキャスト成型で商品化されている。 で、今回このアイテムのCADデザイン(モデリングデータ)を作ったのがぬえの加藤直之氏だった。 加藤氏は先の早川文庫「宇宙の戦士」の表紙や巻頭のカラー挿絵を手がけている。

  大元のデザインに携わった言わば生みの親が、モデル原型のデザインに携わるのだから、これはもう決定版になるだろう・・・と、最初は誰もが思った。 

プロデュースの失敗


話を加藤氏のところに持っていったのが、そもそもの間違いだった。 日本中の多くのオタク頭脳に焼きこまれているのは加藤氏のPSではなく、宮武一貴氏が書いたPSだったのだから。 海洋堂サイドでは、最初に自分のところの原型師に作らせたカッコイイPS原型を加藤氏に見せに行ったのだと言う。 しかし、加藤氏の「僕のと違う」の発言で、「それじゃ、その"僕のPS"をみせてくらはい」「いいですよ」というような経緯(想像)で、今やShade使いとして有名だった加藤氏がモデリングデータを作ることになったのだった。 出来上がったデータは人間が着ることが出来ることを考慮され、着ぐるみとして正しい形をしていた。 が、正直に言ってカッコ悪いのである。

模型としての"けれん味"というものを忘れたのが、このアイテムのプロダクトデザイン上の失敗なのだ。 どんなスケールモデルだって、模型としてのアレンジがある。 例えばタミヤの自動車モデルはものすごくメリハリを強調する傾向がある。 自動車メーカーから提供されたCADデータをそのまま原型のデータにしても魅力的なプロダクトにはならない。

クオリティの問題


本商品は完成品として、2001年の日本SF大会の会場で先行販売され、続いて一般販売された。 しかし、¥5,800という値段の商品でありながら、そのクオリティはお世辞にも値段に見合ったものとは言えなかった。 せいぜい上代が¥300の食玩なら許される雑なもぎり跡(ランナーからの切り離し跡)も¥5,800の商品でこれは・・・と首を捻らざろうえない。 塗装もなにか、清潔感がないというか、雑なのだ。 そもそも1/20のPSには¥5,800に見合うボリュームが無いのだ。 

キット版



完成品のリリース直後にキット版もリリースされることが海洋堂から正式にアナウンスされた。 完成品版の値段とクオリティに激しく失望した私も「キットなら、自分でなんとか出来るかもしれない」と考えて、とりあえずキット版を待つことにした。 

2001年の11月頃にリリースされたキット版は、今までの海洋堂キットのそっけない箱とは違い、デザインスタジオに外注した化粧箱におさまり、パーツはインナーブリスターの中に整然と並んでいた。 

しかし、パーツを手にとって眺めてみて、期待は失望に変わった。 汚いモギリ跡が完成品となんらかわらないのは仕方ないにしても、塗装をされてない状態で見ても、パーツのひとつひとつが『眠い』のである。

とにかく、作ってみる


文句を言いながらもとにかく、作ってみる。 なんせ、こっちはこのキットに\3000支払ったのだ。 しかし、早々に問題に直面した。 加工が出来ないのだ。 PVC成型のパーツはデザインナイフの刃をあてても、綺麗に削れない。 また、ほとんどのPVC製パーツの目立つ部分にもぎり後があり、ラッカーパテは上手く乗らない。 パーツの修正にエポキシパテかアルテコ(瞬間接着パテ)を使うしかない。  この時点で、このアイテムをきちんと作るという気持ちは私の頭から四散し、とにかくどうしても我慢できないところだけ、加工し、後は目をつぶることにした。

どうしても我慢できないところとは

  • 電磁噴進砲のパーティングライン
  • パーツ#07 PSの口(?) のど真ん中にあるパーティングライン
  • Y字型擲弾筒の引け
  • ベクターノズルの引けとパーティングライン
以上の点を修正し、あとは、もう目をつむる。 とは、言うものの、たったこれだけでも結構嫌になってきて、1年程箱に戻して放置した。

組み立て・塗装


ハセガワのバトロイドを作り、もっとぬえメカが作りたいという気持ちになり、このキットのことを思い出した。  1年間の熟成を得て、少しはマシになってるかもしれないと淡い期待を抱きつつ、箱を開けてみたが、やはり中身は記憶と変わらなかった。 しかも当時は冬季迷彩にするつもりだったのか、一部のパーツがグレーで塗ってある。 (私は同じキットのカラーバリエーションを並べたりするのが大好きなのだ)

 しかし、このキット、今となっては2個も3個も作る気には到底なれない。 そこで、文庫の挿絵にあったダークグリーンのカラーリングにした。 塗ってみるとサンダーバード2号のような色合いになったので、フレームガンは赤で塗り、2号のカラーリングに合わせた。

組み立てはドライヤーでパーツを温めながら行うという、PVCキットならではの作業になる。 温めることで生まれるパーツ自体の弾力で強制的にパーツ同士をはめ合わせる。 しかし、パーツ毎の精度は決して高くないので、組み合わせた後で、あちこちにゆがみが見られて工業製品的なまとまりを感じられない。

(いないとは思うが)これから、このキットを作るヒトは、以下の点は注意してほしい。
肘関節は 38+40R 及び 37+35L を先に組み立ててから42R,41Lにセットすること。 順番を間違えるとボールジョイントを肘関節に仕込むことが出来なくなる。

戦いすんで日が暮れて・・・


商品コンセプトの失敗がこの商品郡の失敗そのものだ。 もう少し模型としてカッコイイものであったなら、少々パーツに難があっても、がんばって作ることが出来ただろう。 海洋堂は元々は模型屋のくせに、模型の基本を忘れたから、こういう売れない商品を作ってしまったのだ。 また仕上げの悪い完成品も、「海外版」だとか抜かして簡易パッケージの廉価版を市場に投入してきた。 最初の商品から比べてみれば、殆ど半額近い値段になっている。  こういったことをユーザーサイドがどう見るか海洋堂はもう少しまじめに考えたほうが良い。

最後に、本稿の前半部分は2001年のSF大会や月刊モデルグラフィックス誌上で語られたことであり、模型ファンから見れば『そんなことは知ってて当然』の内容である。 しかし、2年後3年後に、こういう経緯で生まれ、消えていった品があったことを思い出せるように書いた。

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